アート

■フェルメール「真珠の耳飾りの少女」 Loved one


小さな絵だった。
思っていたよりも、ずっと。
だが、それがこの少女にはかえってふさわしい気がした。
少女の名はわからない。
だから私たちは「真珠の耳飾りの少女」と彼女を呼ぶ。

圧倒的な人気を誇るオランダの画家フェルメールが描いた少女である。
手仕事を行う生活者の姿を光がさしこむ窓際に描くことを
あるいは様々な寓意を含んだ絵をアトリエを舞台に描くことを
好んだ画家だった。

しかしこの少女だけはこちらをふりむいているだけ。
今まさにこちらに話しかけようと首を回し、唇を開いている。
フェルメールはただこの少女の顔のクローズアップを描いた。
作品とするために少女に付加えられたと思うものは
頭に巻かれた青いターバンと
一粒の真珠の耳飾り。
少女の愛らしさをひきたてるかのように
青いターバンはラピスラズリで鮮やかに彩られ、端は少女の肩へと垂れている。
そして真珠の耳飾りは白濁のきらめきを見せて、少女の片耳から下がっている。

画家と少女の関係はわからない。
ただフェルメールがこの少女に注いだ視線はかぎりなく優しく
愛情深いものであったことはわかる。
少女の肌は丁寧に丁寧に色が重ねられ
唇の輝きを強調するためにハイライトの白が点々と置かれている。
「青いターバンを巻いてごらん」
「この真珠のイヤリングをしてごらん」
(君をもっと美しく描きたいのだ)
(君の愛らしい表情を永遠に絵の上にとどめたいのだ)
画家の思いが聞こえてくるような気がするのだ。

だからこそ私たちはこの絵の前に立つと
自然に唇がほころび
少女に微笑んでしまうのだ。
「愛されている」
そう、思う。
この少女は画家に。
それが父親の娘に対するものなのか
画家のこのモデルへの恋心なのか
それは、わからない。
ただ愛されている者の表情だと思うのだ。
そして愛している者の筆だと思うのだ。

フェルメールの他の作品も素晴らしい。
この画家のたぐいまれな力量と観察力の鋭さをいかんなく見せ
まさにオランダを代表する
世界中にマニアを作るにふさわしい
偉大な絵画たちだ。
しかし他の作品たちは私たちに謎かけをしていることが多い。
描かれた地図の意味は?
トランペットは何を意味する?
画家はなぜこの色を用いたのか?
繊細なタッチの中に謎解きの興味を含有している。

しかしこの「真珠の耳飾りの少女」だけは
ただこの少女の生き生きとした愛らしさを
はつらつとした表情を
画家は描きたかった。
そう思えるのだ。

ただ一つの謎かけは
「あなたは誰?」


■オランダ:マウリッツハイス美術館


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